『僕を海へ連れてって!!』 −1− 

僕は社会人になってから海へ行った事が無かった。
と言っても別に大した事では無い。
だけど、今年は今までより長めに夏休みが取れたので、折角だから海へと行きたかった。
竜弥に言っても、『今度なー』と軽く流されるだけで、出逢ってから3回目の夏を迎えていた。今年こそは!と意気込むのも三回目となるわけだ。

二人でエアコンの効いた部屋で、寝る準備万端の格好でゴロゴロとしていた。
ソファーには竜弥が陣取っていて、呑気に経済新聞なんかを読んでいる。
僕は、カーペットの上で、ただ転がっていた。
顔を上げて竜弥を覗いてみる。
何分か前と変わらず、新聞を読みふけっていた。

「ねぇ、竜弥。僕今回の夏休み長いじゃん?だから何処かに行かない?」

「んー?」

新聞から少しだけ僕へと視線をずらした。

「だから、聞いてる?」

「あぁ、聞いてる…」

絶対に竜弥は聞いていない!こんな返事の時は、人の話を聞いていない。
僕は竜弥の膝に抱きつく様な感じで、竜弥を揺さぶった。

「チョット、本当に聞いてるの?」

「うん、聞いてる。…で何処に行きたいんだ?」

「うんとね、海!」

僕は少しだけ考える振りをして見たけど、やはり即答で答えた。

「…海?」

「そう。海に行きたい!」

「…今度な…」

僕は、この答えを3回も聞いている。いい加減に、嫌になっていた。

「竜弥さん?その答え3回目なんですけど?」

僕は上目遣いにまた新聞へと戻されている目線の竜弥を睨んだ。

「……海って、人が沢山居るからなぁ…」

「そうだけど、でもどうしても行きたいんだ!ダメ?」

「……」

「…なら、いいよ!僕、昇を誘うから!!!」

「?」

「僕、もう寝るから…竜弥オヤスミ!」

僕はワザと足音をドカドカと立てて、寝室へと向った。
ベッドへとダイブして、勢い良く布団を被った。
“竜弥の馬鹿!!別にいいんだ!昇と楽しんで来るんだから!”
瞼をギュッと瞑って、昇に明日電話しようと考えていた。
ウトウトし始めると、寝室のドアが開きベッドが軋む。

“竜弥…寝るんだ…”
そんな事を考えている内に僕は寝てしまった。




****翌朝****


「聖司!起きろ!!」

「…うーん…どうしたの?」

「早く起きるんだ!!」

「…だから何?」

僕は眠気眼を擦りながら、又布団を被り直そうとした。だけど、それは阻止されて、勢い良く布団を引っぺがされた。

「出掛けるから、早く準備をしろ?」

「……え?!出掛けるって何処へ?」

「何処へって、海に決まってるだろう?」

「うそ…本当に連れてってくれるの?」

僕はまだ寝ぼけているのか?だけど、目はハッキリと冴えている。目の前にはTシャツにジーパンのラフな格好の竜弥が立っていた。しかも、眼鏡ではなくコンタクトだ!
僕は勢い良くベッドから起き上がり、“竜弥の気が変わらないうちに準備をしなければ”と思って洗面所へと駆けて行った。


30分も経たない内に、準備は完了となった。
玄関の鍵を閉めると同時に、竜弥は車のキーを取り出し、その横についているスターターのスイッチを押した。

エレベーターを降りてエントランスへと抜け、駐車場へと向った。其処はアスファルトの照り返しが十分に出来ていて、灼熱の地獄と化していた。

「竜弥ぁ、凄く良い天気だけど…暑すぎるねぇ」

僕はもう額に浮かんでいる汗をハンドタオルで拭きながら竜弥の腕へ絡みついた。

「…聖司、頼む車に乗るまでは…少しだけ離れてくれないか?…今日は暑すぎるな…」

「本当だね…僕、もう伸びそう…」

「あと少しだ、我慢してくれ…」

僕は竜弥の車を黒王と名付けていた。その黒い姿が見えると、僕と竜弥は黒王の傍まで一気に駆け寄って、キーが開くのを待った。
車に乗り込むと、エアコンが既に効いていて、外とはまるで別世界の様に涼しかった。
後部座席に荷物を置くと、竜弥の運転で車を走らせた。

下道は相変わらず混雑していた。

皆は一体何処に行くんだろう…。

そんな事が頭を過ぎったけど、竜弥とのデートで僕の脳裏から一瞬で過ぎ去った。
僕は朝から一つ離れない疑問があった。高速に乗り出した頃、僕はその質問を竜弥へと投げ掛けた。

「ねぇ、竜弥どうして僕を海に連れて行こうなんて思ったの?昨日はあんなに関心無さそうだったのに?」

「…べ、別にいいだろ?こう暑いから俺も海に行きたくなっただけだよ…」

「…ふーん、そうなんだ」

そんなの嘘だって僕は解っていた。竜弥の反応を見ればすぐ判った。
きっと僕が昇と行くからなんて言ったからだ。だけど、それは言わずに竜弥の反応が見れた事が僕は何だか嬉しかった。だってそれってヤキモチだよね?

僕は嬉しくなって竜弥の空いている、左手をギュッと握った。すると、いつも通り力強くギュッと握り返してくれる。そんな手を離す事無く、僕は竜弥の頬にチューをした。

「おっ、おい、聖司危ないだろ?」

「危なくないもん!どうしても竜弥にチューしたかったんだもん!」

「そんなの、着いたら幾らでもしてやるよ…」

「…?!竜弥今なんて言ったの?」

僕は自分の耳を疑った。竜弥、もう一度言って?僕もう一度聞きたい。

「…だから、着いたら幾らでもしてやるって…」

「!!本当?絶対だよ?」

「…あっあぁ」

正面を見つめる竜弥の顔を覗き込むと竜弥の顔が赤くなった。僕は竜弥を抱きしめたくて仕方が無かった。だけど、そんな事をしたら、竜弥に怒られるから止めて置いた。



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